恋愛下手の恋模様~あなたに、君に、恋する気持ちは止められない~
「いったいどうしたの?宍戸が私に電話をかけてくるなんて、珍しいわよね」

宍戸は補佐ほど忙しいわけではなさそうだから、会社でだって話す時間は取れそうなものなのに、と思う。

―― そうだった?

私の問いをはぐらかすようにそう言ってから、彼は私に訊ねる。

―― 岡野は、今、ウチにいるのか?

誰とどこにいるかまで宍戸に詳しく話す必要はない。だから私は簡単に答えた。

「外よ」

短い間が空いた後に、宍戸の声が聞こえた。

―― もしかして、誰かと一緒だった?

「えぇ」

そう即答してから、宍戸の声に引っかかりを感じた。苛立ちのようなものが滲んでいたような気がした。なぜだろうと思ったが、今は深く考えている暇はない。私は、なかなか本題に入ろうとしない宍戸を話に引き戻そうとした。

「それよりも何かあったの?急ぎの用?」

―― いや、急ぎとかそういうわけじゃないんだけど……。

奥歯にものが挟まったような、いつもの宍戸らしくない言い方をする。

別人のようだ、と私は怪訝に思った。いつものような、憎たらしいくらい歯切れの良い言葉遣いや勢いはどこに行ったのだろう。

彼は今夜、先輩たちと飲みに行ったはずだ。そこで何かトラブルでもあったかと心配になる。その気晴らしか、あるいは愚痴や文句なんかを仲の良い同期の私に聞いてほしくて、電話をかけてきたのだろうか。しかし、実は気づかい屋の宍戸がそんな事態に巻き込まれることはほとんどないと思うのだ。

彼の話の内容が気にはなったが、今はそれ以上に、補佐を待たせていることの方が気になった。早く電話を切らなくてはと焦り出し、私は早口で言った。

「宍戸、ごめんなさい。急ぎじゃないなら、電話を切ってもいいかしら。話だったら明日にでも会社で聞くから。人を待たせているの」

―― あ、そうだったよな。悪かった。……帰りはあんまり遅くなるなよ。

まるで保護者のような言葉だと内心苦笑する。

「ありがとう。じゃあ、おやすみなさい」

結局宍戸の用件は何だったのだろう。私は首を捻りながら電話を切った。

明日聞けばいいか――。

すぐに頭を切り替えて、私は補佐が待つベンチへ戻った。

補佐の側まで戻った私は頭を下げた。

「申し訳ありませんでした」

「もういいの?早かったみたいだけど」

「はい。特に急用ではなかったようなので」
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