恋愛下手の恋模様~あなたに、君に、恋する気持ちは止められない~
6.突然の来訪

玄関先で

連絡する――。

休憩スペースであの時そう言った宍戸からは、電話もメールも来なかった。別にそれを待っていたわけではない。

この一週間の間にも、宍戸とは社内で何回か顔を合わせたりしたが、私に対する彼の態度はいつもと変わりなく見えた。だから、彼の用件はもう解決したのだろうと思った。

それなのに、私はもやもやしていた。あの時私の前で見せた『らしくない』宍戸の様子、山中部長補佐の意味深な言葉、そういった様々が私の心をかき乱す。おかげで、せっかくの週末だというのに何をするにも集中できないでいた。

こういう時は、とにかく体を動かすのがイチバンだ。

そう思いたった私は早めの昼食を済ませると、ひたすら部屋中を掃除して回った。いつもは見て見ぬふりをしていた場所まで雑巾がけをするという、大掃除並みの掃除だ。終わった時には、額際や背中がしっとりと汗ばんでいた。

「うん、カンペキ!」

我ながらよく頑張ったと、綺麗になった部屋を大満足で見回した。

「気合い入れすぎたかな。気分転換にはなったけど、ちょっと疲れちゃった」

私は一人ごちると、夕食前に入浴することにした。頭にバンダナを巻いてはいたけれど、髪にほこりがついているかもしれないし、汗もかいた。

全身を綺麗に洗った後は、ぬるめのお湯を張ったバスタブにアロマオイルを数滴垂らす。好きな香りを薫らせながら時間を気にせずにバスタイムを楽しめるのは、一人暮らしならではの贅沢な時間だ。

「ふわぁ。気持ちいい」

こうやってのんびりしていると、この数日の間にあった様々な出来事が、実は夢だったのではないかと思えてくる。

「補佐を好きだっていう気持ちは、夢じゃないんだけどね」

小さくつぶやいたつもりのひとり言が思ったよりも大きく響いて、私は苦笑した。

「上がろう」

ざぶっと水音を立てて私は湯船から立ち上がり、浴室から出た。バスタオルで濡れた体を拭いた後、特に予定もないから上半身は素肌の上に長袖のカットソーとロングワンピースをそのまま身に着ける。
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