恋愛下手の恋模様~あなたに、君に、恋する気持ちは止められない~

帰り道

せっかくの機会だから一緒に行こうと誘われはしたが、帰りたかった私は断った。

「もう今夜はかなり酔ってるので、これで帰ります……」

「全然酔った顔していないよ。本当はまだ飲めるんじゃないの?」

酔っぱらった先輩たちからそんな風にからかわれたが、私は笑いながら否定した。

「そんなことないです、ただ顔に出ないだけなんです」

それは本当だ。もうだいぶ酔っているという自覚があった。人前で醜態をさらすわけにはいかないと、平気なふりをしているだけなのだ。

「どうぞ皆さんで楽しんで下さい」

私は頭を下げた。

「それじゃあ、またの機会にね」

そう言って先輩や同期たちは、信号が青に変わったばかりの横断歩道に向かって歩いて行った。

宍戸が心配そうに私の顔を覗き込む。

「送っていこうか?」

私は首を横に振った。

「大丈夫よ。タクシーで帰るから。それよりもほら、みんな待ってるみたいだよ?」

「おーい、宍戸!」

大声で名前を呼ばれて、宍戸は肩をすくめた。

「俺も帰りたいんだけど」

「気持ちは分かる。でも営業なら、特に先輩たちの誘いは断らない方が後々いいんじゃないの?」

宍戸はうんざりしたように顔をしかめた。

「まったく、今どき体育系の乗りはやめてほしいよ。……それじゃ、気をつけて帰れよ。なんかあったらすぐ電話しろよ」

「はいはい。お疲れ様」

再び宍戸を呼ぶ声が聞こえた。

彼は気がかりそうな顔で私を見たが、諦めたように先輩たちの方へと走って行った。

「宍戸っていい人」

私はふふっと笑いながら、同期の後ろ姿を見送った。

「さ、帰ろう」

一人つぶやき、タクシー乗り場がある大通りに向かって歩き出した時だった。背後から私の名を呼ぶ声が追いかけてきた。

「岡野さん、待って!」

私はびくりとして立ち止まり、ゆっくりと振り向いた。

「補佐?」

私は目を見開いた。

「ごめん、びっくりさせたよね。えぇと、岡野さん、で合ってるよね」

「はい。ええと、お疲れ様です」

私はどぎまぎしながら言葉を返した。目の前にいるのは、私から見れば雲の上のような人物だ。緊張してしまい、酔いが一気に醒めそうだった。

「お疲れ様。ところで、タクシーを拾おうとしてるのかな?」

「はい」
< 6 / 112 >

この作品をシェア

pagetop