恋愛下手の恋模様~あなたに、君に、恋する気持ちは止められない~
「じゃあ、そこまで一緒に行かないか。俺もタクシー拾うつもりなんだ」

「三次会には参加されないんですか?」

補佐は苦笑を浮かべた。

「今夜はもう勘弁だよ。いつも以上に飲まされた。うちの連中は、飲み会っていうと容赦ないからね。――さ、行こうか」

「はい……」

補佐の少し後ろを歩きながら、私はそっと彼の様子を伺った。

いつも以上に飲まされたと言っていたわりに、その横顔は凛として、足取りにも乱れた様子はない。

補佐に付き従うように黙々と歩いていると、彼はわずかに振り向き私に訊ねた。

「岡野さんと宍戸は同期入社なんだね」

「はい」

「二人って、ほんと、仲がいいんだね」

「仲がいいと言いますか、あれは…」

たぶん、一次会の時の様子を見て言っているのだろうと思った。私は小さくため息をついた。

「私が一方的にからかわれていただけなんです」

彼はくすっと笑った。

「そういうのを、仲がいいっていうんじゃないの?じゃれ合ってるようにしか見えなかった。俺、同期っていうのがいないから、羨ましいよ」

「えっ!」

私は思わず大声を上げてしまう。

「羨ましいだなんて、どうしたらそうなるんですか?補佐、本当はかなり酔っていらっしゃいますよね?」

「あはは。分かる?」

補佐は機嫌良さそうに笑った。

意外な顔を見たと思った。最初に感じた厳しい取っつきにくさのようなものがないことに、私は驚いていた。

こっちの方が絶対好きかも――。

そんな感想が頭の中に唐突に浮かんだ。途端に私はうろたえ、それから自分に言い聞かせる。

単なる人としてという意味であって、特別な意味は何もないんだから――。

たどり着いたタクシー乗り場に待機していたのは1台だけだった。

どうやら利用者がピークの時間帯だったらしい。タクシーを待つ人は他にはいなかったが、これを逃したら次はいつ乗れるか分からない。

どうしようかと考えたが、ここはやっぱり補佐に譲るべきだと思った。

しかし、先手を打つように彼は言う。

「岡野さんが先に乗って」

「そういうわけには……。補佐がお先にお乗りください」
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