恋愛下手の恋模様～あなたに、君に、恋する気持ちは止められない～

ふたりきり

私と宍戸が二人でいるところを見て、補佐は何かを思っただろうか――。

補佐が私たちの関係を気にすることなどあり得ないのに、つい願望めいたことを思ってしまった。

案の定補佐は、ただ軽く驚いた顔をしただけだった。しかもそれもほんの一瞬のことでしかなく、あっという間に穏やかな表情に戻って私たちに声をかけた。

「二人とも、お疲れ様」

「お疲れ様です」

「お疲れ様です……」

補佐は宍戸に目を向けた。

「今戻って来たのか？」

「はい、つい先ほど」

宍戸は普段と変わらない様子で補佐の問いに答えている。私とはまるっきり正反対の余裕の態度だ。

動揺を隠しきれていないのは、どうやら私だけのようだった。挨拶をした後の私は、気まずい思いで目を伏せていた。

「乗ってもいいかな」

補佐が遠慮がちに言った。

わざわざ確認するのは、私と宍戸の間にある微妙な空気を察したからだろうか――。

補佐の問いかけに落ち着かない気持ちになったが、私は宍戸が口を開くよりも先に答えた。

「もちろんです、どうぞ！」

宍戸は固い笑みを浮かべてエレベーターの「開」のボタンを押していた。補佐が乗り込んだのを確かめてこう訊ねた。

「補佐、この後は席に戻られるんですよね」

「あぁ、そうだけど」

「それなら……」

宍戸はちらっと私を見た。それから押していたボタンを急に「閉」に変えて、扉の向こう側へ素早く出て行った。

「えっ？」

予想外だった宍戸の行動に、私は思わず声を上げた。

「一緒に戻るんじゃないの？」

宍戸はにっと笑った。

「課長には適当に言っておくから」

「適当に、って……。何なの？」

宍戸は私の慌てた声を無視して、補佐に向かって軽く頭を下げた。

「そういうことでよろしくお願いします。それじゃ、俺はここで」

「よろしくって、え？」

補佐も面食らった顔をしている。

「ちょっと、宍戸！」

彼を引き留めようとした時には、扉は閉まりかけていた。扉が完全に閉じる前のほんの一瞬、その隙間から見えた宍戸は笑っていた。少しだけ複雑そうな笑顔だったけれど、それを見て私は彼の行動の意味を理解した。

キィンという機械音を鳴らして、エレベーターが再び動き出した。

「あいつ、いったい何のつもりで……」

困惑した補佐のつぶやきを耳にしながら、私は両手をぎゅっと握り込んだ。きっと宍戸は私に機会を作ってくれたのだ。それをありがたいと思うべきなのは分かってはいるが、しかし、どうしようか。