恋愛下手の恋模様~あなたに、君に、恋する気持ちは止められない~
私は瞬きを何度も繰り返して補佐を見つめた。

「あの、どうしてでしょうか……?」

「さっきの映画の話、予定を確認したら連絡したいから」

「え、でも……。本当はご迷惑なのでは?さっきのご様子から、てっきりそうなのかと……」

「やっぱりね……」

補佐の苦笑が顔中に広がった。

「急に様子が変わっただろう?絶対何か誤解していると思ったんだよ。話を続けようとするのを遮ったりもするし……」

「え……それでは……」

頭の中はまだ混乱していたが、断られた訳ではないことが分かった。徐々に気持ちが落ち着いて冷静さが戻ってきたら、顔から火が出るかと思うほど恥ずかしくなった。補佐の話を最後まで聞かずに、誘いを断られたと勝手に思い込んでいたのだ。

「あの、本当にですか……?」

羞恥心で熱くなった頬を手で覆いながら私はおずおずと訊ねる。

補佐は笑いたいのをこらえるような顔つきのまま大きく頷き、はっきりと言った。

「本当です。番号、聞いても?」

「は、はい」

「それじゃあ、教えて?」

夢のような展開だと半信半疑に思いながら、私は自分の番号を口にした。

それを入力し終わると、補佐は携帯の画面を軽くタップした。

「これが俺の番号」

その直後に私の携帯が鳴った。バッグの中から急いで取り出した携帯の画面には、未登録の番号が表示されている。補佐の連絡先だ。

「ありがとうございます……」

胸が騒がしくなる

「予定が分かったら連絡するから、それまでは消さないでおいて」

補佐はそう言って悪戯っぽく笑い、スーツの胸ポケットに携帯を収めた。

「それじゃあ、俺は先に戻るよ。できるだけ早く連絡する」

「はい、ありがとうございます。あの、お待ちしています……」

「うん」

補佐はそのままオフィスに向かおうとして、何を思い出したのか真顔になって私を見た。

「宍戸ってやっぱりさ……」

「はい?」

「いや、何でもない」

補佐は言いかけた言葉を飲み込む。

「それじゃ、また」

笑顔でそう言いおいて、補佐は今度こそ私の前から去って行った。

その姿が見えなくなってから、私は深々とため息をついた。短時間のうちに色々なことがありすぎて、頭の中は飽和状態だった。けれど、まさかの連絡先の交換に気分は高揚する。

しかし、自分勝手な想像を膨らませてしまいそうだった。少しは私に好意を持ってくれているのだろうか、いつかそれが好意以上のものに発展したら嬉しいのに、と。
< 76 / 112 >

この作品をシェア

pagetop