恋愛下手の恋模様~あなたに、君に、恋する気持ちは止められない~
『ありがとうございます。お店が決まったら連絡します。帰路お気をつけて。お待ちしています』

メッセージを送信してから、少し後悔した。まるで業務連絡のような、事務的で淡々とした書き方になってしまったからだ。もう少し可愛げのある書き方をすればよかったと思っていたら、補佐から短く返信があった。

『了解』

補佐が戻ってくるまでは約一時間。帰る準備をして、お店を探して……などとやっているうちに、それくらいの時間、すぐにたってしまいそうだ。

決着をつけるという目的がある今夜、再び勇気を振り絞ることになるはずだ。そう考えると、補佐に会えるとばかり喜んでもいられない。けれど私の頬も口元も、引き締めるのが難しいほど緩んでしまっている。

私は他の人に気づかれないようにうつむき加減で、慌ただしくロッカールームへと急いだ。

補佐とメッセージのやり取りをしてから、およそ一時間後。

私は、以前から気になっていたお店にいた。席くらいは予約した方がいいだろうと考えて電話を入れてみたところ、すんなりと予約が取れたのだった。

二人掛け用のテーブルにぽつんと一人で座った私は、大きく切られた窓の外をぼんやりと眺めながら補佐のことを考えていた。

私は手元の携帯に目を落とした。このお店に決めたことを知らせてから間もなく、分かったと返信があってからは特に連絡はない。今頃はこちらに向かっているところなのかもしれない。

私は水の入ったグラスに手を伸ばした。連れが来てから注文すると伝えたのに、わざわざ置いて行ってくれたのだ。テーブルの端に置かれたメニューをちらりと見た。補佐が来るまでもう少し時間がかかりそうなら、せめて自分の分の飲み物だけでも注文してしまおうか。ずっと水だけで席に居るのはさすがに気が引ける。
何を頼もうか――。

私はメニューを開いた。悩みながら眺めていたら、店員の声が耳に入った。

「いらっしゃいませ。お一人ですか?」

はっとして私は出入口の方に首を伸ばした。やはり補佐だった。

彼は私を探すように店内を見回していたが、すぐに気がついたらしい。店員に何事かを伝えると、私のいる席までやってきた。
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