恋愛下手の恋模様~あなたに、君に、恋する気持ちは止められない~
「補佐もそういう風におっしゃったりするんですね」

メニューから目を上げて補佐は私を見た。

「言い方?」

「腹が減った、っていう言い方です。なんていうか、補佐のイメージじゃなかったので」

「イメージ、ねぇ」

そうつぶやいて、補佐は苦笑を浮かべた。

失礼な物言いだったろうかと、私は焦って話題を変えた。

「えぇと、ここは何がおすすめなんでしょうね」

「確か、昔来た時に食べたピザは美味しかったな」

「このお店、ご存知だったんですか」

「うん、まぁね。……あ、いや――」

補佐がはっとしたように口をつぐんだ。

「補佐?」

「何でもないよ」

そう言って補佐は笑って見せたが、私は彼がその先を話すことをやめた理由がひどく気になった。

「ところで、お酒は飲む?」

いつも通りの口調に戻って、補佐はメニューに目を落とす。

私は少し迷ってから言った。

「頂いてもいいでしょうか」

お酒を飲んだところで、今夜は酔えないだろうと思った。けれどまったくの素面状態で、この後に待っている今日最大の課題に立ち向かう自信はなかった。

「何がいい?」

補佐はそう言って、私の方に文字が向くようにメニューをテーブルに置いた。

メニューを見ながらも、私は頭の中で別のことを考えていた。補佐が見せた苦笑の意味と、その先を話さずに口をつぐんだ理由だ。特に彼がこの店を知っていたのがなぜなのかが気になった。

いったい誰と来たんだろうと思う。それが必ずしも女性だったとは限らない。大人数で来たのかもしれないし、男の友人や上司、後輩とだったのかもしれない。しかし補佐の様子から、それは女性だったと思っている。例えば、そう、元カノとか。

その単語が思い浮かんで、遼子さん以前にも補佐が心を許した女性がいたはずだということに今さらながら思い至った。その途端、胸の奥がちくりと痛む。

しかしせっかくの補佐の時間だ。いったんそのことは忘れて、私は適度な量のお酒と美味しい料理を堪能した。

デザートが運ばれて来てから、補佐が思い出したように言い出した。

「この前出張に行ったんだけど」

私は舐めるように飲んでいた白ワインのグラスを置いた。

「確か仙台の方へ行かれたんですよね。取引先でトラブルがあったとかで、補佐が対応のために行かれたと聞いています」
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