恋愛下手の恋模様~あなたに、君に、恋する気持ちは止められない~
「ん……?」

眠っていたのだろうか。ぼんやりとした頭で目を開けた私は、自分の体の下にある柔らかい感触に気がついた。さらに、自分の腕がおかしな位置にあることに気づき動揺する。

何これ……。どうして私、宍戸に抱きつくような格好しているの……。

すると、宍戸の声が頭の上から聞こえた。

「やっと起きたか」

「あ、あの……」

至近距離に宍戸の顔がある。私は慌てて体を起こし、それから恐る恐る彼に訊ねた。

「えぇと、これはどういう状況……?」

宍戸もまた体を起こしながら、顔中を苦々しい笑みでいっぱいにした。

「覚えてないのかよ。俺に抱きついたまま離れてくれなくてさ。ま、そんな長い時間じゃなかったけど」

「えっと、あの……」

覚えていない――。

どういう経緯で、宍戸の体を下敷きにすることになったのだろう。その辺りの記憶がない。

恥ずかしすぎる――。

ベッドに腰掛けたまま顔を覆っていたら、宍戸の声が間近に聞こえた。

「岡野」

「ん?」

聞き返して顔を上げると同時に、私は宍戸に押し倒された。

「やめて」

「いやだ」

そう言って宍戸は私をぎゅっと抱き締めた。

逃げられなかった。宍戸の体の重みで動けず、私は硬直したまま天井を見上げた。

「岡野、今日はものすごいハイペースで飲んでたよな。帰りは足元ぐらぐらでさ。あんな飲み方する岡野を見たのは、たぶん初めてだ。――もしかして、やっと補佐に振られた?」

やっとという言い方にカチンとして、思わず言い返す。

「違う」

「じゃあ、あれか。まだ返事をもらえていないってやつか」

鎌をかけられただけだったかもしれない。それなのに、私は反応してしまった。

「当たりか」

私は横を向いたまま、つぶやくように言った。

「返事は少し待って、って……」

「なんだよ、それ。ただイエスかノーの二択しかないだろ。なんで時間が必要なわけ?」

「どうして宍戸が怒るの?」

身の危険を感じるような状況にあるというのに、私は不思議に思って宍戸に訊ねた。

宍戸は私の肩に顔を埋める。

「そんなの、岡野が傷つくのを見たくないからに決まってるだろ」
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