恋愛下手の恋模様~あなたに、君に、恋する気持ちは止められない~
何よ、それ――。

優しく言われて、涙が浮かびそうになった。気持ちが不安定になっているせいだ、お酒を飲みすぎたせいだと自分に言い聞かせ、涙が流れ落ちないように我慢した。

宍戸は私から離れると、起こした体を支えるようにして両腕を突っ張った。膝を折り、私の上に覆いかぶさる。

「俺だったら、お前にそんな顔はさせない。させないように努力する。これ以上ないってくらい、とことん甘やかしてやる。最初は補佐の代わりだってなんだっていい。いつか俺だけしか目に入らないようにしてやる。補佐なんかやめて、俺を選べよ」

宍戸の甘くて熱い言葉に、心が揺さぶられた。このままイエスと頷けば楽になれる――心の片隅でもう一人の自分がそう囁く。

補佐のことは、もう諦めた方がいいのかな……。

私はぎゅっと目を閉じた。涙がこぼれた。

宍戸なら、私を大切にしてくれるかな……。

「岡野……」

宍戸の吐息を首筋に感じて、私はぴくりと肩先を震わせた。

彼の唇はまるで壊れ物でも扱うような優しさで、私の額、瞼、頬に触れていく。

これでいいの?本当に?

宍戸の指が私の唇をそっとなぞった時、私の口からその名前がこぼれ落ちた。

「補佐……」

そこに宍戸の盛大なため息が聞こえた。

「はぁぁぁ……」

ゆっくりと目を開けると、宍戸は眉間に深いしわを刻んで私を見下ろしていた。

「今回の告白も、結局失敗に終わったか」

そう言って私から離れ、床に座り込んだ。

「宍戸、あの……」

声をかけようとしたが、何を言っていいのか分からない。

言葉に詰まる私の前で、彼は天井を仰いだ。

「何も言わなくていい。特に『ごめん』とかいう言葉はいらないからな」

私は起き上がり、宍戸の背中を眺めた。

「こうなるだろうって、予想はついていたんだ。たださ、いくらかは可能性が残ってたりするんじゃないかなと思って、最後の手段の色仕掛けで堕とそうと思ったんだけど。残念。ダメだったわ」

「色仕掛け……」

私ははっとして、髪や洋服の乱れをそそくさと直す。

宍戸は私のその様子を笑って横目で見ていたが、不意に立ち上がった。真っすぐキッチンスペースへ向かうと、それから間もなくして水の入ったコップを手に戻ってきた。

「ほら、水。かなり飲んでたから」
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