ふたりだけの世界で、本物の愛を。
スマホの電源も切って、学校の教科書を読んだり、膝に乗せてワークにある問題集を解いたりしていると、どれだけ時間が経ったのかも分からない。
でも、なんとなくそろそろみんなが下校するところだろうな。
空はもう紺色で、月が遠い空の向こうで浮かんで、はっきりとした金色になっているし……あっ、一番星まで光っている。
「あれ、千秋じゃん」
聞き覚えのある声が、耳にすっと入り込んだ。
「しょ、う、ちゃん……!」
翔ちゃんが、わたしの姿を見つけて歩いてきている。
思わず一歩一歩、後ずさってしまうわたし。
バカだなぁ、こんなことをあの子たちや似たような人に見られたら、ますます翔ちゃんが悪く思われるに決まっているのに。
それなのに……。
いけないと分かっているのに……。
どうしても、心が体にそう指令を出してきて、無意識に自分の足が従っているのだ。
「どうしたの」
翔ちゃんは、後ずさっているわたしを見て不思議そうな顔をする。
わたしは、くるりと背を向けて、そのまま走り去った。
「千秋っ!」