Crazy for you ~ きみに堕ちて

恋情


にやけそうになる顔を引き締める努力をしながら、俺は通路脇にある案内表示に目を向けた。


「みなみ、あっちはイルカだって。行ってみよう」


彼女の名前を口にすると、甘やかな想いが心に広がる。それだけではなく、今すぐ彼女に触れたい衝動までもが沸き起こる。


恋人になったんだから、手を繋ぐくらいは許してくれるだろうか。


「みなみ」


振り向いて名前を呼んだら、彼女ははにかみながら俺を見上げた。


その表情に、抱きしめたくなるのを我慢する。その代わりに、俺は彼女の手に自分の指を絡ませて、きゅっと力を込めた。


その感触に彼女はびくっと表情を震わせたが、迷う様子を見せながらも俺の手に応えるように、そろそろと指を折り曲げた。


修羅場一歩手前を経験したバツイチの俺が、まさかこんな風に、誰かを好きになれるとはまったく思っていなかった。こんなにも熱く心が震えるほどの恋情を、相手に抱くことになるなんて……。


今の俺ときたら、他の男の目から彼女の姿を隠そうとしたり、嫉妬したり、と恥ずかしいほどみっともない。彼女に振り回されているような気もするが、むしろそれを嬉しいと思っている自分がいるのだ。


なんだかな――。


隣を歩く大好きな彼女に気づかれないように、俺はそっと小さくため息をつく。


「今日はいつもよりもたくさん、一緒にいられますね」


みなみは恥ずかしそうに笑い、そんな可愛いことを口にする。


お願いだ。俺の気持ちをそんなに揺さぶらないでくれ――。

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