繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
 そう尋ねながら、気楽でいいと思っているのは自分だ。いつもひとりはさみしいけれど、さみしいだけでもある。さみしさを紛らわせることができるなら、ずっとひとりでいられる気もするのだ。

 康代はそっと笑んで、違うとばかりに首をゆるりと振る。

「男の人って、いい意味で寛容よね。こちらが許せないようなことをあっさりと受け入れたりして。でもね、悪く言うと、無責任。興味がないから寛容になれるのよ。もし、お相手の方にそういうところがあったら、許容できない気がしたの」
「そっか。そういう理由もあるんだね」

 奈江だって、そうだ。母の言動に嫌気がさして、許容できずに家を出た。それは娘だから出来ることで、夫婦だったら逃げ出せない。

 真面目に働き、家事も得意な康代が結婚に向かないなら、自分なんてもっと……という気持ちになる。

「奈江ちゃんはいるの? そういうお相手」

 康代は優しい口調で聞いてくる。秋也とのことが見透かされているような気がしてそわそわしてしまう。

「ううん、いない。でも、もう27だし、付き合う人ができたら、結婚も意識するのかなって思って」
「可能性はあるわよね。結婚したい人なら、それもいいかもしれないわよ」
「結婚したいなんて思うのかな。私も無理じゃないかな。相手に迷惑かけちゃうなら、最初からお付き合いしない方がいいよね」
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