繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
 いまだ、秋也からの告白の返事は保留中だ。彼とは秋祭り以降、何度か会っているが、返事の催促はない。ゆっくり考えてくれていいと言ってくれる彼の言葉に甘えてばかりだ。

「迷惑なんて、どうしてそう思うの?」
「私ね……、人の気持ちがわからないの」

 そう言うと、康代はおかしそうに目を細める。

「奈江ちゃんはいっつも、人の気持ちばかり考えてるのにね。もしかして、お相手の方の大切な時間を奪ってしまうかもなんて考えたりしてない?」

 康代はそうだったのだろうか。自分と結婚して、この人は幸せになれるのだろうか。そう考えたのだったとしたら、結婚を選択しなかった理由が、奈江も少しはわかる気がした。

「それはあると思う。私と過ごす時間が人生の無駄になるなら、ほかの人と幸せになってほしいって」

 そうは言ってみるが、今はまだ、そこまでの気持ちにはなれていない。秋也が他の女性と……なんて、素直に歓迎できない。

「本当に、ほかの人とって思うの?」
「……そうなったら、たぶん嫌だと思うけど」
「好きなら、そうよね。お付き合いしたい人がいるなら、交際するのはいいんじゃない?」

 奈江はどんな顔をしたらいいのかわからなくて、ポインセチアを見つめる。

 赤と緑のカラーが、クリスマスを連想させる。きっと、秋也のことだ。返事は待ってくれても、クリスマスにはどこかへ行こうと誘ってくれるだろう。それがわかるぐらいには、秋也を理解できている気はしてる。
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