繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
*
「奈江ちゃん、頼みがあるんだけど、今からうちに来られない?」
母の実姉である伯母から、珍しくそう電話がかかってきたのは、土曜日のお昼過ぎだった。
普段は急な用事で出かけるのを億劫に感じる奈江だが、伯母のお願いには抵抗がなく、二つ返事で快諾した。というのも、子どものいない伯母は、昔から奈江を人一倍可愛がってくれており、実母と折り合いの良くない奈江もまた、伯母を慕っていたからだ。
以前から折に触れて連絡を取り合う仲ではあるが、最後に電話で話したのは、正月の挨拶だったか。伯母もまた、頻繁に連絡を取りたがる人ではないから、連絡がないのは元気な証拠ぐらいに思ってくれていただろう。
懇意にしている伯母の頼みとあればと、奈江が、「すぐに向かうね」と言うと、伯母は電話口でうれしそうな声を漏らしつつ、「ちょっとつまづいて、足を怪我しちゃってね。おつかいをお願いしたいんだけど」と、申し訳なさそうに言った。
伯母は10年ほど前に骨折してから、少しばかり足が悪い。あれは、奈江が高校一年生のときだ。伯母は飼っていた柴犬のマメの散歩中に転んで骨折してしまい、奈江が代わりに夏休みの間、彼女の自宅に寝泊まりしてマメのお世話をしたのだった。
「奈江ちゃん、頼みがあるんだけど、今からうちに来られない?」
母の実姉である伯母から、珍しくそう電話がかかってきたのは、土曜日のお昼過ぎだった。
普段は急な用事で出かけるのを億劫に感じる奈江だが、伯母のお願いには抵抗がなく、二つ返事で快諾した。というのも、子どものいない伯母は、昔から奈江を人一倍可愛がってくれており、実母と折り合いの良くない奈江もまた、伯母を慕っていたからだ。
以前から折に触れて連絡を取り合う仲ではあるが、最後に電話で話したのは、正月の挨拶だったか。伯母もまた、頻繁に連絡を取りたがる人ではないから、連絡がないのは元気な証拠ぐらいに思ってくれていただろう。
懇意にしている伯母の頼みとあればと、奈江が、「すぐに向かうね」と言うと、伯母は電話口でうれしそうな声を漏らしつつ、「ちょっとつまづいて、足を怪我しちゃってね。おつかいをお願いしたいんだけど」と、申し訳なさそうに言った。
伯母は10年ほど前に骨折してから、少しばかり足が悪い。あれは、奈江が高校一年生のときだ。伯母は飼っていた柴犬のマメの散歩中に転んで骨折してしまい、奈江が代わりに夏休みの間、彼女の自宅に寝泊まりしてマメのお世話をしたのだった。