繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
ランプを購入した奈江は、自宅アパートへ戻るとすぐ、丁寧に梱包された箱からランプを取り出した。
早速、目覚まし時計しか乗っていない、ベッドのサイドテーブルにランプを乗せ、スイッチを入れる。
淡い黄昏色の光が、ほんのりと優しく室内に灯る。ベッドに上半身を横たえ、奈江はぼんやりと光を見つめた。
秋也と出会ってから、淡々とした毎日に変化が生まれたように思う。しかし、その変化は奈江を疲れさせる。
心地よい疲れを感じながら、そっとまぶたを閉じる。目を閉じていても感じる黄昏色の光が、秋也の優しさのように感じられる。
このランプがあれば、秋也がずっとそばにいてくれるような安心感と同等のものを感じて、毎晩疲れた心を癒すことができるだろう。
秋也に惹かれている。それはもう、迷いのない気持ちとわかっているけれど、この思いを叶えたいとまでは思わない。好きでいられるなら、それでいい。心を傷つけないためには、胸に秘めているだけでいい。
いつだって奈江は、楽しむことよりも傷つかないことを優先してきた。だから、もう二度と秋也に会えなくてもかまわない。大野で秋也と過ごした思い出は、優しい思い出になればいいのだから。遥希との思い出のように。