繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
 そう言われたら、自分だって秋也に会いたい。だけれど、同じ温度で会いたいと思っているわけではない。

 会えば、ますます秋也に心惹かれるかもしれない。でも、彼には恋心なんてないのだし、友情を育むのは難しいように思う。

「迷惑?」
「迷惑ではないんですけど……」
「嫌じゃないなら、食事だけでも」

 迷惑でも嫌でもない。ただちょっと戸惑っているだけだ。

「少し……」
「ん?」
「考えさせてください」

 情けない。好きな人からのお誘いなんだから、喜んで受けたらいいのに、消極的になってしまうなんて。

 ほんの少しの沈黙のあと、秋也は快活に笑った。

「早坂さんらしいね。わかった。来週、また連絡するよ。秋になる頃には会えると嬉しいよ」

 気長に待つ、と言ってくれたのだろう。そんな気遣いを感じながら、奈江はそっと電話を切る。

 秋はもうすぐそこまで来ている。季節が変わっても、秋也の心が変わらなければ、連絡があるだろう。そのときまでに、心を固めることができているだろうか。

 本当に、優柔不断で臆病で、情けないよね。

 心の中でつぶやいて、目をあげる。すずらんのランプが、奈江の心を労わるように、優しく室内を照らしていた。



【第一話 完】
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