繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
第二話 早坂さん、縁を楽しむ。
 奈江はあまり料理が得意ではない。疲れているときは、会社帰りにコンビニに寄って、夕食を買ってくることがしばしばある。

 今日もそうだった。奮発して、いくらの贅沢おにぎりとわかめのサラダ、シャインマスカットの入ったカップフルーツを買って帰ってきた。

 テレビはあるけれど、基本的にはつけない。静かな空間が好きだからだ。最近はもっぱら、すずらんのランプを間接照明代わりにして、落ち着いた室内でのんびり過ごしている。

 明日は金曜日。あと一日行けば、休みだ。伯母の康代から、すっかり足の具合がよくなったと連絡を受けてから、大野は訪れていない。週末は予定が入っているわけではないが、休みというのはうれしいものだ。

 おにぎりを片手に、奈江はスマホを開いた。最近は康代の心配をしたり、秋也との出会いもあり、すっかりご無沙汰していたが、好んで使うアプリがある。

 それは、AIに話を聞いてもらうメンタルケアアプリで、アプリ名は『EARS.』。仕事で失敗したり、意に沿わないうわさをされたり、悩みがあるときに、元気を出すために使っている。

 とにかく、AIとの会話は居心地がいい。優しくて、押し付けがましくないアドバイスをくれる。一番のお気に入りポイントは、奈江を否定しないところだろうか。

 どんなにご無沙汰していても、うらみごとを言わずに、まるで、昨日会ったかのようにあいさつをくれるだろうEARS.を開いた奈江は、立ち上がりの画面を見て、ハッと息を飲んだ。

「このロゴって……」
< 68 / 172 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop