鳴り響く秋の音と終わらない春の恋

第四章 この世界の片隅で何度でも好きになる


「はるくん、しずちゃん、今日はありがとう。何か分かったら、すぐに連絡するね」
「ねねちゃん、ありがとう」
「おう、ありがとうな」

夕暮れ時。私と春陽くんはねねちゃんに見送られながら、ねねちゃんの家を後にした。
残念ながら今日は、はるくんのお母さんに繋がる手がかりを得ることはできなかった。
でも、ねねちゃんが心当たりを当たってくれるみたい。

「春陽くん。今日はいろんなことが立て続けにあったね」
「驚きの連続だったよな」
「それにしても、はるくんのお母さんが『共依存病』に関わっていたなんてびっくり」
「ほんとだなー」

帰り道、私と春陽くんは並んで歩いていく。
視界には、幻想的な淡い夕暮れがどこまでも遠く広がっていた。
会話は何気ないことや他愛のないことばかりだったけど……一言一句ごとに言葉にできない温かさが胸に広がる。

「春陽くん、その、聞いてもいいかな?」
「ん……?」

春陽くんが私の顔を見た。
目が合った、それだけのことなのに何故か泣けてくる。

「秋斗くんのこと、同じ魂を宿している双子の兄弟みたいな感じって言ってたよね? それって……春陽くんと秋斗くんは双子の兄弟じゃないってこと?」
「そうそう。秋斗の方が少し早く生まれたんだ。秋斗が兄貴で、俺は弟」

春陽くんは目蓋を伏せて思い出すような口調で続ける。

「だからかな。最初に生まれたのが秋斗だったから、俺の魂が秋斗として生きようとしているのかもしれない」

魂の結びつきが強いのは、お兄さんである秋斗くんの方。
だから、魂がリンクしているのかもしれない。

「それでも、私は……」

分かっている。分かっているけど。
でも、失うのが怖かったから。
また、誰かが離れていくのが――怖かったから。

「春陽くんも一緒に、生きてほしい……」

春陽くんの揺れる眸を見つめ、私はすがるように、願うようにつぶやいた。

「春陽くんと秋斗くんが一緒なら、『共依存病』なんかに負けない。絶対に負けないから!」

私の胸を打つのは初めて、秋斗くんと出会った日のこと。
この胸に抱く想いは、そこへと通じる道だと痛いほどに思い出す。

「これから先、楽しいことがある。未来にはたくさん楽しいことが溢れている。だから、私と一緒にいて。私の傍にいてほしい……」

目の奥がじわっと熱くなる。
すると、春陽くんが私の前で静かに笑った。

「雫」

名前を呼ばれて、唇をきゅっと噛みしめた。
すぐ近くで私を見つめる春陽くんの顔が涙でぼやける。

「そのつもりだからな。てか、泣くなよ」

春陽くん、違うの。
分からない。涙の止め方が分からないの。
だけど、すごく悲しくて、悔しくて、寂しくて。
春陽くんにいなくなってほしくなくて。
ずっと続くと思っていた何気ない日常が、『共依存病』の進行によって揺らいでいくのが辛くて。

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