鳴り響く秋の音と終わらない春の恋
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秋斗くんが出るヴァイオリンコンクールの本選は梅雨が開けて間もない日だった。
じめじめとした六月の暑さはどこかへ吹き飛んでしまったような、からっと晴れ上がった空は透き通るほどに青い。
ヴァイオリンコンクールの本選は、動画の音源審査であった第一予選、地方の市民ホールだった第二予選の会場とは違い、広々とした大ホールでの公開審査となる。
春陽くんの話によると、予選の段階でかなりの数が落とされるらしい。
「ねねちゃん、今日はお願い聞いてくれてありがとう」
「えへへ、大丈夫だよ。だって、あきくんのヴァイオリン、わたしも聞いてみたかったもん」
コンクールの会場である大ホールは県外にある。
私とねねちゃんは列車を乗り継ぎ、遠方の地へと足を踏み入れていた。
「そう言えば、あきくんって?」
「秋斗くんだから『あきくん』」
「ねねちゃんらしいね」
私の疑問に答えると、ねねちゃんは朗らかに笑った。
「でも、あきくんに会うの、初めてだからドキドキする。どんな人かなー」
「ううーん。多分、ねねちゃんもびっくりすると思う」
わくわくと喜びの声を上げるねねちゃんに、私は困ったように答える。
正直、最初に秋斗くんに出会った時は驚きの連続だったからだ。
その時、携帯の振動がメールの着信を教えてくれる。
画面に映る送り主は『秋斗くん』。
私はゆっくりとメールを開く。
『おっす、雫。先程着いて、コンサートホールのロビーにいるとこ。秋斗として、ねねちゃんに会うのは初めてだから緊張するな』
今日は秋斗くんの日なのに、相変わらずメールの内容が春陽くんらしくて、私はホッとする。
「ねねちゃん。秋斗くん、ロビーにいるって」
「そうなんだ。緊張するー」
私の呼び声に、ねねちゃんがますます顔を赤面させる。
コンクールの会場である大ホールに入れば、さらに人口密度は高い。
「あ……」
そこで私はロビーの一角に人だかりを発見した。
その多くは女の子たちで、中央にいるのは目をひくくらいかっこいい男の子だった。
その見た目はどこにも非の打ち所がない。
彼は周囲の人々に取り囲まれて身動きが取れないでいる。
「秋斗くん」
「え? あの人があきくん……」
私の言葉に、ねねちゃんはぽかんと口を開く。
秋斗くんは芸能人並みの容姿をしているからやたらと目立つのだ。
しかも、名だたる国際コンクールで何度も上位入賞を果たした天才ヴァイオリニストの息子。
秋斗くんもまた、様々な国内コンクールで上位入賞するほど、ヴァイオリンが上手い。
容姿端麗で、子供の頃から一躍注目を集めるほどのヴァイオリンの神童だった秋斗くん。
そんな絵に描いたようなモテ要素満載な男の子はいつだって女の子の憧れの的。
だから、当然、女の子の黄色い声がいつも周りを取り巻いている。