鳴り響く秋の音と終わらない春の恋
「ねねちゃん、どうしよっか」
「声、かけづらいね……」
私はたまらず、ねねちゃんにすがるものの、ねねちゃんも困ったように見つめ返してくるばかり。
それでも声をかけなくては何も始まらないのも事実だ。
「秋斗くん、お待たせ」
私は勇気を振り絞って声を出した。
しかし、その決断が私を窮地に陥れることになる。
その場にいた女の子全員の視線が私に集中したからだ。
ううっ……。
相変わらず視線が痛い。
めっちゃ嫌だ、このシチュエーション……。
秋斗くんは私たちに気づくと、視線をこちらに移した。
「篠宮さん。そして、鳴海さん、こちらでは初めまして、三宅秋斗です」
「もしかして、ほんとにはるくん……じゃなくてあきくん……?」
ねねちゃんは理性よりも先に、直感が結論を出したようだ。
「あきくん。いつもみたいに、ねねちゃんって呼んでほしいなー」
「さすがにそれは……」
ねねちゃんの懇願に、秋斗くんは困惑する。
「あきくん?」
「だれ? あの子たち、三宅くんの知り合い?」
いつもと聞いて、女の子たちの視線がねねちゃんに飛び火する。
だけど、硬直して言葉の出ない私とは違い、ねねちゃんは何の気負いもなく、堂々とした態度で秋斗くんに話しかけていた。
うん。ねねちゃん、強い。
注目の的になっていた私たちは人込みを掻き分けて、ホールの奥へと足を運んだ。
*
「この席だね」
私たちはとりあえず三人並んで席を取り、そこに座った。
地方の予選を勝ち抜いて本選に出場した予選通過者は十人にも満たないため、開演前にはあらかじめ用意された控え室で待機することになる。
開演が近くなってくれば、秋斗くんは席を離れ、控室に向かうことになるはずだ。
「ええと、あきくんの順番は……」
「僕は最後になります」
「そうなんだー。あきくんは高校生の部の最後――トリなんだねー」
ねねちゃんが開いたプログラム――コンクールの概要が書かれた紙には、秋斗くんの名前は最後に書かれている。
高校生の部は課題曲が難しく、それを演奏する人たちの技術も高いらしい。
私が視線を向けると、秋斗くんは真剣な面持ちでステージを見ていた。
「確か、秋斗くんはお父さんの薦めでヴァイオリンを始めたんだよね?」
「……はい」
息を抜くような秋斗くんの声が隣から聞こえる。
それは、どこか諦めたような音をしていた。
「僕は小さい頃からヴァイオリンを習っていましたが、正直、レッスン自体は好きではありませんでした。僕の時も、春陽の時も、外で自由に駆け回りたい、そう願っていましたから」
そう語る秋斗くんの声はすがるような切実さを孕んでいる。