望まれない花嫁に愛満ちる初恋婚~財閥御曹司は想い続けた令嬢をもう離さない~
「ああ」

史輝は美紅の頬に軽くキスをしてから、上機嫌で家を出た。

残された美紅は頬を抑えて俯いた。

見送りに来た玄関には、美紅だけではなく、使用人もいるから恥ずかしくなってしまう。

(なかなか慣れないな……)

人前でイチャイチャするのは、美紅にとってはかなり勇気がいることだ。

けれど史輝はただ愛情表現をしている訳ではない。

彼が美紅を大切にしていると周知することで、美紅の立場を守ってくれているのだ。

その証拠に、初夜で放置されたと思われていたときとよりも、あきらかに使用人たちが美紅に気を遣っているのがはっきり分かった。


史輝の見送りを終えて私室に戻ると、明日香が待っていた。

今日は分家の夫人たちを招いた交流会があるので、服やアクセサリーを選んでもらっていたのだ。

「あ、美紅さんお帰りなさい」

「ただいま」

「顔赤いですね。もしかしてキスでもされました?」

鋭い明日香の指摘に、どきりとする。

「あ、当たりだ。本当に仲がよくなりましたね。よかった!」

明日香が自分のことのように喜んでくれているのを見て、美紅も嬉しくなった。

他の使用人の態度が変わった今でも、一番信用出来るのは彼女だと思う。
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