望まれない花嫁に愛満ちる初恋婚~財閥御曹司は想い続けた令嬢をもう離さない~
 史輝も子供だったが、美紅よりは年上だから何か覚えていないだろうか。

 残念ながら、史輝は首を横に振った。

「話の内容は分からない。母たちはかなり警戒していて、美紅だけでなく誰も近付けないようにしていたんだ」

「そうなんだ……」

「ただ考えていることはある。あくまで俺の想像だが、美紅のお母さんは笛吹家に戻ろうとして、俺の母と相談をしていたのだと思う。警戒していたのは叔母に知られたくなかったからだ」

「まさか! ……それはないと思う」

「どうしてだ?」

 思ってもいなかった内容だったので思いきり否定してしまったが、史輝が気を悪くする様子はなく冷静に言葉を返された。

「私と母は本家から一時間くらいのところにあるローカルな駅近くに住んだの。父親はいなかったし、小さなアパートだったけど、近所の人は親切だったし楽しく暮らしていた。笛吹家とは一切関わっていなくて、私は母が亡くなるまで親戚がいることも知らなくて……もちろん京極家についても、母の友人の家としか思ってなかった」

 当時の美紅は自宅近くの保育園と公立小学校に通い、ごく普通に暮らしていたのだ。
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