望まれない花嫁に愛満ちる初恋婚~財閥御曹司は想い続けた令嬢をもう離さない~
五章 変化
夏の暑さが落ち着きはじめ、秋の始まりを感じる九月中旬。
美紅は史輝と共に、東京の老舗ホテルを訪れた。
京極グループの取引先であるキフジフードの創立三十周年記念パーティーに招かれたからだ。
パーティー会場に入るとすぐに、人々の輪の中から抜け出した四十代後半に見える男性が駆けつけてきた。
「京極様、お越しいただき恐縮です」
どうやら彼が今日のパーティーの主催者である木藤社長のようだ。
食品業界の大手であるキフジフードのパーティーだけあり、同業種の経営者や著名人が集まっているが、その中でも史輝は注目を集めている。
主催者も他の招待客も、史輝に近付くチャンスを窺っている。
その様は財界での京極家の地位を表している。分かっていたことだけれど、目の当たりにすると圧倒された。
(すごい……みんな史輝くんに気に入られようと必死になってる)
人に傅かれることに慣れている史輝とは違い、美紅は気を抜いたら萎縮しそうになる。
「あの、そちらの方は……」
木藤社長が史輝に寄りそうように立つ美紅に目を向ける。
すると史輝が端整な顔を満足そうに綻ばした。
「先日結婚した妻です」
「京極美紅と申します」
美紅は木藤社長に向けて微笑んだ。
こうして史輝の苗字を名乗るのはまだ慣れていない。
緊張感の中でも、くすぐったさを感じ、嬉しい気持ちがこみ上げてくる。
史輝の言葉を聞いた藤木社長の顔に一瞬驚愕が浮かんだが、すぐに居住まいを正した。