望まれない花嫁に愛満ちる初恋婚~財閥御曹司は想い続けた令嬢をもう離さない~
「史輝さん、ご無沙汰しております」

 今度は美紅より少し年上と思われる若い男性が近付いてきた。史輝とは顔見知りのようだ。

「ああ」

 男性は史輝から美紅に視線を移した。一瞬だけれど品定めされているのを感じる。

「紹介がまだだったな。妻の美紅だ」

 史輝が美紅の腰に手を回し、引き寄せながら言う。

 ぴったり寄り添うような形になり、周囲がざわついたのが分かった。

「……本当に結婚したんですね。その様子だと夫婦関係は良好そうだ」

 男性が驚いたように目を丸くする。

「そうだな。だから妙なことを考えるなよ」

 史輝が警告するように声を低くした。突然の喧嘩腰な態度に美紅は驚き史輝を見上げる。

(史輝くんがこんなに警戒するなんて、この人と何かあったのかな?)

 以前酷い喧嘩でもしたのだろうか。

 はらはらしていると、男性が苦笑いをした。

「もちろんですよ。そんなに警戒されなくても、史輝さんの奥様に手を出すなんて命知らずの男はいません」

「え? 命知らずって?」

 驚くあまりつい素が出てしまった。そんな美紅に男性がくすりと笑う。

「物騒なことを言って申し訳ありません。それだけ奥様が愛されているということです」

「え、あの……」

 戸惑いながら史輝を見るが、彼は依然として警戒を緩めない。

「今日はこれで失礼します。後日改めてお伺いします」

「ああ」

 史輝が鷹揚に頷くと、男性は離れていった。

 けれど注目度は変わらない。いや、なんとなく視線が生ぬるい感じになった気がする。

 居たたまれなさを感じていると、史輝が歩きだしたので、美紅もつられて足を進める。

 広間から続いている中庭に出て、人気がないベンチを見つけて腰を下ろした。
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