望まれない花嫁に愛満ちる初恋婚~財閥御曹司は想い続けた令嬢をもう離さない~

「さっきの男性は知りあいなの? 史輝くんの言い方がキツかったから喧嘩になるかと思って心配していたけど、相手の方が気を悪くした様子はなかったから」

 あの態度は、むしろ親しいからではないだろうか。

「ああ、驚かせてごめんな。あいつは海外留学で知り合った昔馴染みだ。俺より遅れて帰国して今は実家の冷凍食品会社を継いでいる」

「それなら友達? どうしてあんな態度を?」

「悪いやつじゃないが、女癖が悪いんだ。美人に目がなくて、すぐに声をかけに行く。美紅を見る目が怪しかったから釘を差した」

 史輝がさらりと言った言葉に、美紅は複雑な気持ちになった。

(私を見る目は、品定めだったけど)

 少なくとも好みの相手を見つけたときの顔では絶対になかった。

「注目されていたから、あの場にいた皆を牽制する意味もあった。美紅は俺が大切にしている妻で、無礼をしたら、俺が許さないと」

 史輝の眼差しに甘さが宿る。

「う、嬉しいけど、史輝くんの威厳が損なわれてしまわないかな?」

「そんなのはどうでもいい。俺にとって大切なのは美紅の幸せだから」

 史輝の手が伸びて、美紅の髪をそっと梳いた。

 首筋に触れそうで触れないその動きに、美紅の心臓はドキドキと音を立てる。

「あ、あの、史輝くん?」

 ふたりの間を流れる空気が、甘く濃くなっていく。

 いつ人が来るか分からないこんなところで、妙な気分になってしまいそうだ。
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