望まれない花嫁に愛満ちる初恋婚~財閥御曹司は想い続けた令嬢をもう離さない~
「美紅……」

 史輝が端整な顔を少し傾け近付けてきた。けれど唇が触れ合う直前にぴたりと止まる。

「口紅が落ちてしまうな」

「あ……」

 史輝の言う通り、念入りに施したメイクが落ちた状態で戻ったらどう思われるか分からない。思い留まってくれてよかった。

 それでも心は史輝との触れ合いを求めていたから、残念だと感じている。

(史輝くんはどう思ってるのかな)

 少しはがっかりしているのだろうか。いや理性的な彼は、平然と気持ちを切り替えていそうだ。

「そろそろ戻ろうか?」

 このままここにいたら、期待を持ってしまいそうだ。

 広間に戻った方が、今日の仕事に集中できる。

「そうだな……でもその前に」

 史輝が不敵に笑い、美紅の肩を抱き寄せた。

「キスの代わりに美紅を堪能したい」

 そう言ったと同時に、史輝の唇が首筋に触れた。

「あ……」

 思わずびくりと体を震わす美紅を、史輝が逃げないように抱きしめる。

 そのまま何度も熱い唇で首筋と鎖骨をなぞり、美紅はぞくぞくとするような感覚に震えながら史輝にしがみついた。

(こんなのキスよりも刺激が強いよ)

 それでも彼の温もりが愛しくて、抵抗する気にはならなかったのだった。
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