望まれない花嫁に愛満ちる初恋婚~財閥御曹司は想い続けた令嬢をもう離さない~
その後広間に戻ると、歓談の時間が終わり木藤社長のスピーチの時間になった。
三十年の苦労と今後のビジョンを語った彼は、史輝にひとこと賜りたいと言い出した。突然のことなのに、史輝は戸惑いもなく壇上に上がった。
皆の前で堂々と語る彼には、人の上に立つ者のカリスマ性があり、誰もが目を奪われている。
美紅の前ではよく笑うし、冗談を言うこともあるけれど、皆の目にはクールで隙がない後継者なのだろう。
そんな特別な男性の妻が自分だと思うと、背筋が伸びる気がした。
(史輝くんの妻として自信を持てるように、もっと頑張ろう)
新たな決心と共に、美紅にとって初めての外部との社交が無事終わった。
迎えの車の後部座席に史輝と並んで座ると、ようやくほっとひと息つけた。
「美紅、よく頑張ったな。完璧だった」
史輝が大袈裟なくらい褒めてくれる。
「史輝くんがフォローしてくれたから……少しは皆さんに認めてもらえたかな」
「ああ。でも誰かに認めてもらう必要はない。美紅は俺が自分の意思で望んだ唯一の妻だ」
「……ありがとう」
美紅は史輝の肩に寄りかかるようにもたれた。
最近になって自分から彼に甘えることができるようになってきている。
史輝はそんな美紅の態度が嬉しいのか、上機嫌だ。
「疲れたのか?」
「少しだけ。こうやって史輝くんに寄りかかっていると気持ちがいい」
「眠かったら寝て大丈夫だぞ。着いたら俺が運ぶから」
「うん、ありがとう」
うとうとしていると、あっという間に屋敷に到着した。
「あ、着いたんだ」
「ああ。部屋まで抱いていこうか?」
史輝が少しふざけた口調で言う。美紅が恥ずかしがると分かっているのだ。
「自分で歩くから大丈夫」
本当に抱き上げられてしまいそうなので、運転手が開いてくれたドアから急ぎ降りようとする。
そのとき、ぐらりと視界が揺れて、立っていられなくなった。