望まれない花嫁に愛満ちる初恋婚~財閥御曹司は想い続けた令嬢をもう離さない~
「お医者様に診てもらわなくて大丈夫そう」

「いや、念のために診てもらった方がいい。その方が俺も安心できる」

「史輝くんがそう言うなら……」

 わざわざ来てもらうのは悪いと思ったけれど、夫にこれ以上心配をかけないように、大人しく受診することにした。

 京極家のかかりつけ医は、驚くくらいすぐに駆けつけ美紅を診察してくれた。

「少し貧血がありそうです。おそらく疲れが出たのでしょう。食事に気を付けてゆっくり体を休めることで、回復します」

 どうやら深刻な病気ではなかったようだ。診察結果にほっとする。

 けれど史輝は医師が帰ったあとも、難しい顔をしたままだ。

「どうしたの?」

「美紅が体調を崩したのは俺のせいだ。無理をさせてしまったから」

「そんなことない! 史輝くんによくしてもらっているし。環境の変化で疲れていたのかもしれないけど、気付かなかった私が悪いのだし」

 美紅は基本的には健康で、笛吹家で生活しているときも滅多に寝込むことがなかったので、自分の体力を過信しすぎてしまったのだろう。

「いや、もっと気に掛けるべきだった。しばらくは仕事を休んで体を治してくれ。栄養を取ってと言ってたな。あとでシェフに回復食を頼んでおく」

「あ、ありがとう」

 少し大袈裟ではないだろうか。そう思うものの、使用人にてきぱき指示を出す史輝の邪魔をするのは申し訳なくて、口に出せない。

(それに、こんなに心配してくれるなんて嬉しい)

 母が亡くなってから、美紅が風邪を引いたときに心配してくれた人なんていなかった。

 病気を喜んではいけないけれど、大切にされていると実感してどうしても喜んでしまう。
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