望まれない花嫁に愛満ちる初恋婚~財閥御曹司は想い続けた令嬢をもう離さない~
「美紅、ちゃんとベッドで休め」

「あ、はい。お風呂に入ったらすぐに休むね」

 史輝は今にも美紅を抱き上げてベッドに運びそうな勢いだが、さすがにパーティー帰りにシャワーなしは厳しい。

「分かった。体を冷やさないようにしないとな」

 バスルームまでは一緒に入って来なかったが、休む準備をして寝室に入ると、同様にシャワーを終えた史輝がやって来た。

「……どうしたの?」

「美紅が眠るまで側にいる」

「え?」

 史輝は美紅にベッドに入るように促すと、自分はベッド脇に椅子を引き腰を下ろした。

 まるで入院患者と見舞いに来た家族のようだ。

「私は大丈夫だから部屋で休んで。ベッドで寝ないと史輝くんまで体調を崩しちゃうよ」

「美紅が眠るのを見届けたら部屋に戻るから大丈夫」

「でも……」

 史輝が布団の上に出していた美紅の手をそっと掴み優しく包んだ。

「子供の頃美紅が言っていたのを思い出したんだ。具合が悪くて心細いときは誰か側にいて欲しいって」

 美紅は僅かに目を瞠った。

 確かにそんな話をしたことがある。

 子供の頃、風邪を引いて学校を休んだ日があったが、母がどうしても仕事を休めず、ひとりで家で寝ていたのだ。

 大したことがないただの夏風邪だったし母が早退して帰って来てくれたので、ひとりでいたのは短い時間だった。

 それでも子供だった美紅は寂しくて、多分史輝に愚痴を言ったのだろう。
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