望まれない花嫁に愛満ちる初恋婚~財閥御曹司は想い続けた令嬢をもう離さない~
(そんなことまで覚えてくれていたんだ……)
彼とは沢山の話をした。特別だとも思えない話題まで彼の思い出にあるのだと思うと、とても温かな気持ちになった。
「いつか美紅と一緒に暮らすときのことを、何度も想像した。美紅が風邪を引いたら、側にいようと思った。寂しい思いをさせないように」
史輝の表情はとても穏やかだ。今この瞬間も、幸せな未来を思い描いているのだろうか。
美紅は感謝の気持ちを伝えたくて、史輝の手をぎゅっと握った。
「史輝くんが具合が悪いときは、私が側にいるから」
「ああ」
史輝が幸せそうに微笑む。
「こうしていると、昔のことを思いだすな」
「そうだね。あ、今、暖かかった日にふたりでお昼寝しちゃったのを思い出した。庭の奥で日向ぼっこをしている内に眠ってしまって、お母さんたちが探しに来て起こされて……」
「ああ、覚えてる。俺はあの後かなり怒られたんだよな。小さな女の子が一緒なんだから気をつけなさいって」
クスクス笑い合いながら思い出話に花を咲かす。
「あの頃は楽しかったね」
「ああ。でも今も幸せだ。こうして美紅がそばにいる」
「うん……私も幸せ」
温かくて心地よいひと時。いつの間にか眠りに落ちていて、気が付けば翌日の朝だった。
三日ほどゆっくり過ごし、日常生活に復帰した。
史輝との関係が深まり自信がついたからか、他のことも順調にこなせている。
令華と百合華が本家に近付かなくなったというのも大きい。
屋敷の管理は問題なくこなしているし、史輝と一緒に参加しなくてはならない集まりにも出席している。
空いた時間は、娯楽に使ってもいいし、自分で事業をはじめてもいいと言われているが、美紅はどちらもぴんと来なかった。
起業できるような知識なんてないし、娯楽を楽しむにしても、何をしていいか分からない。
だからひとまずスキルアップの時間に使うことにして、本を読んだり講師からレクチャーを受けたりして過ごすことにした。