望まれない花嫁に愛満ちる初恋婚~財閥御曹司は想い続けた令嬢をもう離さない~
 史輝と結婚してから三カ月。

 十月に入り夜は肌寒さを感じはじめた。

 目眩を感じて診察を受けてから半月経つが、体調は良好だ。やっぱりあのときは、疲れていただけなんだろう。

 ただ、史輝の過保護は収まる様子を見せないでいる。

 最近になって気温が下がったせいかますます敏感になり、シェフに美紅の体によいものを作ってくれと注文を入れたくらいだった。

 そんな史輝が、浮かない顔で美紅の隣に座っている。

 夜寝る前の夫婦のひと時は、いつも穏やかで優しい空気が流れているというのに、今夜の彼は悩ましそうだ。

「なにか嫌なことでもあったの?」

 心配になって聞いてみると、史輝は溜息を吐いた。

「そうとも言えるな。実は明後日から十日ほどイギリスに行くことになった」

「海外出張? ずいぶん急なんだね」

 美紅は会社勤めの経験はないが、海外に十日間もの出張なら、前もって予定が立てられてるものだと思っていた。

「出張には他の執行役員が行く予定だった。それが昨日虫垂炎で入院したんだ」

「ええ? それは気の毒な……だから史輝くんが代理で?」

「そう。この時期に留守にしたくなかったが、他に対応できる人間がいないから仕方ない。美紅、毎日連絡するから、些細なこともすべて話して欲しい」

 心配そうな史輝の顔をみていたら、気がついた。

 史輝が出張を渋っているのは、美紅が心配だからなのではないだろうか。
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