望まれない花嫁に愛満ちる初恋婚~財閥御曹司は想い続けた令嬢をもう離さない~
「美紅様」

「川田さん? どうしたんですか?」

 いつも美紅をフォローしてくれる頼りになる彼女だが、自由時間には美紅から呼ばない限り近付いてこない。気を遣ってくれているのだろうが、そんな彼女がわざわざ庭まで追いかけてくるのは急ぎの要件があるからだろう。

「つい先ほど笛吹家の令華様から電話で連絡がありました。急ぎ美紅様と連絡を取りたいとのことです」

「そうなんですか? 今待ってもらっているところですか?」

「折り返しをするとお伝えし、なんとか通話を終えましたが、かなりお怒りのご様子でした」

 川田にしては珍しく疲労が滲む表情だ。多分令華から文句を言われたのだろう。

「分かりました。すぐに戻って令華伯母様に連絡します」

「ありがとうございます」

 ふたり揃って屋敷に向かう。

「お写真を撮られていたのですか?」

 令華からの電話の用件が気になり無言になっていると、隣を歩く川田の声がした。

「あ……はい。鳥の写真が撮りたくて。昔遊びに来たとき庭に鳥が巣を作っていたのを見たんです」

 川田が頷いた。

「史輝様と御覧になられたのですよね。覚えています」

「はい。そう言えば川田さんはその頃から働いてたそうですね」

「美紅様の前に出たことはありませんが、史輝様と過ごしている様子を何度かお見かけしました。ふたり共とても楽しそうでしたね」

「幼い頃の大切な思い出です。あの頃の史輝くんはすごく年上に感じて、自分に兄ができたようで嬉しかったんです」

 懐かしく思い出していると、川田の顔が綻んだ。
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