望まれない花嫁に愛満ちる初恋婚~財閥御曹司は想い続けた令嬢をもう離さない~
 令華からの電話は、美紅に笛吹家への訪問を促すものだった。

 通常は嫁いでから三カ月以内に里帰りをするものなのに、美紅は一向に帰らないのはどういう了見だと責められた。

 そんな慣例があるとは知らなかったが、川田に聞いたら、だいたいは一カ月以内に里帰りをしているとのことなので、翌日の昼過ぎに川田が用意してくれた手土産と、返しそびれていた伯父の旅行鞄を持って、笛吹家を訪問した。

「ようやく来たのね」

 待ち構えていた令華は、美紅の顔を見ると顔をしかめた。

(私の顔を見るのが嫌なのに、どうして呼び出したのかな)

 離れていた方が、お互いの精神衛生上よさそうなのに。

 なるべく早めに切り上げて、帰った方がよさそうだ。

 通された客間には、伯父が待っていた。今日は百合華の姿が見当たらない。

 揉めた日以降、百合華の噂は全く聞かなくなっていた。

 本家の出入りを禁止されているため、分家の女性たちとの食事会にも参加しないから、今どうしているのか分からない。

(あまり思い詰めてなければいいけど)

 百合華には散々嫌がらせをされて来て、本音を言えば二度と関わりたくないくらいだけれど、不幸になって欲しいとまでは思わない。

「美紅、よく来たな」

 伯父は思っていたよりも好意的に美紅を迎えてくれた。

「伯父様、ご無沙汰しております。なかなか挨拶に来られず申し訳ありません」

「いや、構わない。それにしても美紅も大分しっかりしてきたな。本家に嫁いだだけはある」

 伯父は妙に機嫌がよくて、美紅は戸惑いながら相槌を打つ。

「恐縮です」

 しばらくは当たり障りのない会話が続いた。

 上機嫌な伯父に比べて令華の表情は硬いけれど、口を挟んだり場の雰囲気を壊すような発言はしないから、かなり警戒していた美紅としては拍子抜けだった。

 一時間が過ぎたので、そろそろお暇しようかと思ったとき、伯父の雰囲気が少し変わった。
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