望まれない花嫁に愛満ちる初恋婚~財閥御曹司は想い続けた令嬢をもう離さない~
気が付くと仰向けに寝かされていた。
まず視界に入った天井には見覚えがなく、視線を巡らすと、先ほどの客間に布団を敷いて寝かされているのだと分かった。
(急に目眩がして……その後の記憶がない)
倒れてしまった美紅を、誰かがここまで運び寝かせてくれたのだろうか。
意識がなくなるなんて、初めてだ。
まだ頭がぼんやりしている気がするが、ゆっくり体を起こす。
そのとき、着ていたブラウスのボタンが途中まで外れていることに気が付き、動揺した。
窮屈だろうと、善意で外してくれたのかもしれないが、ここが笛吹家だと思うと不安が増した。
(笛吹家で具合が悪くなるなんて、タイミングが悪すぎる)
憂鬱な気持ちでボタンを留めていると、突然引き戸がからりと勢いよく開いた。
「あっ、目が覚めたんだ!」
引き戸を開けたのは、銀のフレームの眼鏡をかけた若い男性だった。
見覚えのない相手だが、妙に慣れた様子でいる。
「あ、あの、あなたは?」
こんな状態だから、知らない男性に対していつもよりも警戒してしまう。
しかし男性は、美紅の戸惑いに気付かないのか遠慮なく近付いてくる。
「俺? 百合華の知り合い」
「百合華さんの?」
彼女が家に男性の知人を連れて来るのはかなり珍しい。
これまでは令華の目を気にして、女友達くらいしか招待したことはなかったのに。
それに男性が美紅を見る目に、含みがある気がする。初対面の相手に対するには馴れ馴れしい言動なのも気になる。