望まれない花嫁に愛満ちる初恋婚~財閥御曹司は想い続けた令嬢をもう離さない~
「何をしているの?」

 聞き覚えがある声がしたと思ったのと同時に、百合華が部屋に入ってきた。

 彼女は美紅に目を遣ると、馬鹿にしたように、にやりと笑った。

「ああ、やっと目が覚めたのね。気分はどうなの?」

「……大丈夫です。ご迷惑をかけてしまい申し訳ありません」

「本当よ。健康管理くらいちゃんとしなさいよ……ああ、紹介してなかったわね。彼は私の同僚よ」

 百合華が男性にちらりと視線を向けてから言った。

「同僚ということは、京極建設の?」

「そうよ。でも外部だけどね」

 外部と言うのは、京極一族ではないということだ。

 彼に少し怪しさを感じていたのだけれど、本当に偶然居あわせただけなのかもしれない。

「彼と一緒に帰って来たら美紅が倒れたって騒いでいるところだったのよ」

「あの、伯父様たちはどちらに?」

「用があるみたいで外出したわ。だから私が美紅の面倒をみてたのよ。そうそう、倒れていた美紅を、ここまで運んでくれたのは彼なのよ。ちゃんとお礼を言ってね」

「……そうなんですね」

 意識がないときに知らない男性に運ばれたのだと思うと、憂鬱になった。

 失礼だとは分かっているが、嫌だと思ってしまった。

(ボタンを外したのもこの人なのかな)

 助けてくれたのに、こんな風に思ってはいけないけれど、放っておいてくれた方がよかったのに。

 そんなことを考えながら、美紅はふたりに頭を下げた。
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