望まれない花嫁に愛満ちる初恋婚~財閥御曹司は想い続けた令嬢をもう離さない~
「笛吹家で具合が悪くなってしまって、少し休んだの」

「体調が? どんなふうに?」

 史輝が声を大きくする。

「ひどい目眩がして。多分貧血だと思うんだけど」

「少し前にも体調を崩したことがあったな。よくなったと思ってたが……」

「私もそう思っていて、実際あれからは調子がよかったんだけど……昔はこんなに弱くなかったから、自分でも戸惑っていて」

「医者には診せたのか?」

「ううん、もうよくなったので。念の為今日はゆっくり休むね」

 あの時も、睡眠時間を増やしたら、すぐによくなった。今回もきっと大丈夫だろう。

「いや、ちゃんと診察を受けてくれ。川田に言えばかかりつけ医が来るようになっているから」

「うん。史輝くんがそう言うのなら」

「ああ。何でもないならそれが一番なんだから、きちんと確認して欲しい。美紅が心配なんだ」

 史輝の声から労りを感じる。

「史輝くんありがとう。出張中に心配をかけてごめんなさい」

「いいんだ。気を遣って隠される方が困る。美紅が話してくれるから安心できるんだ」

 史輝の優しい声音に、胸がずきりと痛んだ。

 彼はそう言うけれど、美紅を運んだという男性のことは黙ったままなのだ。

(でも、言えない)

 言えば絶対に心配をかけてしまう。簡単に帰って来られない場所にいる史輝に、これ以上余計な負担をかけたくない。

(もし話すにしても、戻って来てからでいいよね)

 美紅が過剰に反応しているだけで、偶然居合わせた百合華の同僚に過ぎないのだから。

 神経質に警戒しすぎで、あの男性に対して失礼なくらいだ。

 結局史輝には話さないで通話を終えた。

(これでいいんだよね)

 そう自分に言い聞かせたものの、胸の奥に何かがつかえているような、すっきりしない気持ちがその後もしばらく付きまとった。
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