望まれない花嫁に愛満ちる初恋婚~財閥御曹司は想い続けた令嬢をもう離さない~
「美紅、反論しないということは事実だと認めるのね?」

 その言葉にはっとして美紅は急ぎ口を開いた。

「認めません! 私は不倫なんてしていません。百合華さん、どうしてそんな嘘を言うんですか?」

 驚愕のあまりすぐに反論の声が出なかったが、百合華の行動は許せないものだ。

 美紅の名誉を棄損しただけではなく、幸せな婚約祝いの場をめちゃくちゃにしたのだから。

(どうしてこんなことを!)

 前田家の人たちへの申し訳なさと、百合華への怒りで体が震える。

 しかし百合華は、余裕の表情でパーティー用のコンパクトなバッグから何かを取り出した。

「これを見ても嘘だといえるかしら?」

 それは大きく印刷された写真だった。百合華は他の人たちにも見えるように、写真を掲げる。

 美紅は大きく目を見開いた。ざっと血の気が引いていく。

 写真に写っているのは、はだけたブラウス姿で横たわる美紅と、覆いかぶさるようにしてる男性だった。その男性は先日笛吹家で会った、百合華の同僚だ。

 決して不倫などではない。けれど写真だけ見ると、限りなく疑わしい状況に写っている。

(百合華さんに仕組まれたんだ……)

 あの時感じた違和感と不快感は、彼らの企みを感じ取ったからだろうか。

「美紅さん」

 茫然とする美紅の腕を、明日香が支えて心配そうに声をかけた。

「明日香さん……あれは違うの。私は史輝くんを裏切るようなことはしていない」

「もちろん分かってます。でもここは一度離れましょう。今反論しても泥沼になるだけだし、前田家をこれ以上巻き込まない方がいいです」

「……うん」

 明日香は百合華を鋭い目で睨みつけると、美紅の手を引き出口に向かう。

 誰も止める者はなく、視線は冷ややかだ。

 美紅は落胆しながら京極家の車に乗り込んだ。
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