望まれない花嫁に愛満ちる初恋婚~財閥御曹司は想い続けた令嬢をもう離さない~
 前田家から帰宅したときの絶望的な心境から抜け出し、大分落ち着きが戻ってきた。

 史輝が帰ってくるまではこれ以上の問題を避けたいので、明日香たちには、当分部屋で過ごすと伝えて引きこもる。

 状況の好転に繋がるヒントがないかと、百合華の行動について考えていたが、新たな発見はなく行き詰ってしまった。

 他に今出来そうなことはないため、スマホで妊娠生活についての勉強をした。

 これまで赤ちゃんと触れ合う経験がない美紅にとって、子育ては未知の領域だ。

「こんなに頻繁に健診があるんだ……揃えるものも沢山ある」

 思いついたものをメモに記入していく。

「男の子かなそれとも女の子かな……どちらでも史輝くんに似るといいなあ」

 まだお腹が膨らんでもいないのに、家族が増えて幸せに過ごす光景が思い浮かぶ。

(史輝くんはどんなお父さんになるんだろう)

 厳しいような気もするし、優しいような気もする。

 美紅は生まれた時から父親がいないから、家庭内での父親の様子は、人に聞いた話やテレビで見たイメージしかない。

(私はよいお母さんになれるのかな)

 母親は優しくてときどきは怒って怖くて……幼い頃は、ただ母と一緒にいられるだけで幸せだった。

「……私はこの子が大きくなるまで絶対に死なない」

 無意識にそんな言葉が零れていた。

(お母さん……)

 無性に悲しくなって涙が零れた。

 よい母親になれるかは分からいけれど、赤ちゃんが大きくなって独り立ちするまでは絶対に側にいよう。

 だって自分が母親に一番望んでいたのは、それなのだから。

 もっと側にいて欲しかった。ひとりにしないで欲しかった。

 母との暮らしは、幸せに溢れていた。

(それなのにお母さんはどうして笛吹家に戻ろうとしたんだろう)

 笛吹家のように贅沢をするお金がなくても、母と暮らせるだけで幸せだったのに。

 令華が危険な人だと分からなかったはずがない。

 実家を出たのだって令華との関係悪化の可能性が高いのに、なぜわざわざ関わろうとしたのか。
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