望まれない花嫁に愛満ちる初恋婚~財閥御曹司は想い続けた令嬢をもう離さない~
(お父さんのところに戻りたいって思うなら、まだ分かるけれど)

 子供の頃、母に父親のことを聞いたことがある。

 亡くなったと言われその時は信じていたけれど、本当なのだろうか。

 美紅は戸籍上も父親不在だ。

 母は妊娠が発覚したときに、父に捨てられたのかもしれない。

(それなのに、私を大切に育ててくれた)

 本当に優しい人だった。

 思いがけない妊娠を告げられたからか、心の奥に秘めていた感情が溢れて来て悲しくなってしまう。

 かなり情緒不安定だ。

 そんなふうにベッドに横になりあれこれ考えていると、寝室のドアを叩く音がした。

 美紅は少し驚きながら、体を起こす。

 今日は休むと伝えてあるのに声をかけてきたということは、おそらく急用だ。

「はい、どうぞ」

 声をかけると扉が開き明日香が部屋に入ってきた。

 彼女の顔には緊張感が滲んでいて、ただ事ではないのだとひと目でわかる。

「明日香さん、どうしたの?」

「美紅さん、旦那様がお呼びです」

 美紅は目を瞠る。

「お義父様が?」

 これまで義父が直接美紅に何かを言ってくることは、一度もなかった。

 伝えることがあるとしても史輝か川田経由で、嫁いで来てから顔を合わせたのもほんの数回。

 それなのに、急な呼び出しをされたということは、かなりの緊急事態ということだ。
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