望まれない花嫁に愛満ちる初恋婚~財閥御曹司は想い続けた令嬢をもう離さない~
「もしかして、令華伯母様が来ているの?」

 はっと思いついて明日香に訪ねると、彼女は浮かない表情で頷いた。

「はい。旦那様のところにいらっしゃっているようです。かなり揉めていたようで、川田さんも困っていました」

「……多分、私のことを言いに来たんだわ」

 それ以外に考えられない。

(行動があまりに早い)

 美紅は唇を噛み締めた。

 おそらく令華は、百合華の動きを知っていたのだろう。

 だからすぐに動くことができた。美紅が手を打つ暇を与えないかのように。

 既に義父に対して、美紅が不利になる話をしている可能性が高い。

(お義父様は、令華伯母様の話を信じて腹を立てているのかな)

 考えると気が重い。それでも義父からの呼び出しを無視はできない。

「……すぐに行きます」

「はい。でもその前に急いでメイクを直しましょう」

 明日香に促されてドレッサーの前に腰を下ろす。

 鏡に映る自分の顔を見て驚いた。

 泣いたせいでメイクが落ちてしまっているし、目が充血して腫れている。

「酷い顔……」

「美紅さん、きっと大丈夫です。旦那様も史輝さんが不在の間に、重大な決定はしないはずですから」

 明日香は美紅が不倫疑惑の件で泣いていたと思っているようだ。

 手早く瞼を冷やし、メイクを直してくれる。合間に励ますのも忘れない。

「明日香さん、ありがとう」

「令華様に、美紅さんが泣いたって思われたくないですからね」

「うん……そうだね」

 令華は美紅が弱っていると知ったら、喜びそうだ。

「美紅さんが負けてないところを見せてやりましょう!」

 明日香の励ましに、美紅は頷いた。
< 166 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop