望まれない花嫁に愛満ちる初恋婚~財閥御曹司は想い続けた令嬢をもう離さない~
「父さん、美紅だけでなく俺も令華さんに苦しめられてきた。美紅との交流を禁止され、母親を亡くした彼女が心配でも会えないようにされたんだ。終いには完全に遠ざけるためか、俺を留学させようと企んだ。父さんはそれを何の疑いもなく受け入れて、俺の意思を確認することなく、留学するように命じてきた。あのとき失望してもう二度とあなたに期待はしないと心に決めた」

 史輝の話は美紅も知らない内容が含まれていた。

 なぜ史輝が美紅を避けるようになったのか。学生で自由が利かなかったと聞いていたけれど、令華がそれほど大きく関わっていたなんて。

「令華さんの横暴をこのまま放っておいたら、京極グループ全てに影響してくる。それすらも見て見ぬふりをする気ですか? 間違いを正せない父さんが、本当にグループトップに相応しいといえますか?」

 史輝の言葉にどきりとした。これでは自分の父親に退任しろと言っているようなものだった。

 息苦しい沈黙が訪れる。しばらくしてようやく義父が口を開いた。

「……史輝の言うことは分かっている。令華に問題があることは以前から気付いているんだ。だが彼女に何も言えなかったのは罪悪感がいつまでも拭えなかったからだ」

「それは父さんがこの家を継いだことですか?」

「そうだ。養子である私は、一生令華を大切にし面倒を見ることを養父母に約束して本家を継いだ。令華もそれを知っていて、ずっと本家に残りたがっていた。だが私は自分の立場を盤石にするために令華の結婚を強引に決めて追い出した。当時は私ではなく令華が配偶者を迎えて家を継ぐべきだという意見もあったからだ。幼い頃から本家の跡を継ぐために努力してきたのに、今更身を引けと言われてもどうしても納得できなかった。だがそのせいで妹を犠牲にしてしまった」

 義父の表情は苦悩に満ちていた。

「罪悪感を持つ気持ちは理解できます。だからと言って、償いをするために他人を不幸にしていい訳じゃない。令華さんの我儘は父さんひとりが受け入れるなら問題がなかった。でも実際は違った」

 義父が力を失ったように、俯いた。

「分かっているんだ。本当は今日、令華に罪を認めるように言うつもりでいた」

(えっ? お義父様は、私が無実だって知っていたの?)

 美紅の表情で言いたいことに気付いたのか、義父が頷いた。
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