望まれない花嫁に愛満ちる初恋婚~財閥御曹司は想い続けた令嬢をもう離さない~
「美紅さんの両親が外出していたときに、偶然令華と会ったそうだ。それ以来令華はふたりが暮らす家を頻繁に訪れ執拗に絡んでいたそうだ。美紅さんの父は小さな会社を経営していたから、令華と揉めて会社に影響を出ることを恐れていた。迷惑に思いながらも強い拒否ができなかったようだ」

 美紅の母は、令華とのトラブルが原因で家を出るまで追い詰められた経験があった。令華の過激な性格を、誰よりもよく知っていたから警戒するのは当然だったのだろう。

「ある日の夜。令華は深夜に美紅さんの両親の家に押し掛けたそうだ。そして体調不良で休んでいた美紅さんの父に車で京極本家まで送るように無理を言ったそうだ。手紙に詳しくは書いていないが相当強引な言動だったのだろう。結局美紅さんの父が令華を送ることになったが、帰りに運転を誤り亡くなってしまったんだ」

「えっ?」

 美紅は思わず高い声を上げた。

 令華の身勝手な要求は、ただの嫌がらせとしか思えない。実際それに近いものだったのだろう。

(そんなことが原因で、お父さんが?)

 動揺してふらつく美紅を史輝が支える。一瞬痛ましげな顔をした義父が、話を続ける。 

「令華が直接手を下した訳じゃない。しかし美紅さんの母はその時から令華を恨んでいたそうだ。親友だった私の妻にも何度も相談していた。ただそれは令華に復讐をする訳じゃなく、どうすれば恨みを忘れて君を育てることだけを考えられるか……友人に辛い気持ちを吐き出していたんだ」

 義父の言葉を聞いた瞬間、史輝が息を呑むのが伝わってきた。

 彼は状況から、美紅の母が笛吹家に戻ることを願っていると考えていたが、実際は違っていた。その事実を知ったからだ。
 美紅は複雑な思いで目を伏せた。

 父の死の真実を知りショックだった。母が令華を恨む気持ちはよく分かる。美紅だって令華が許せない。

 でも、母が復讐に染まるような人ではなくてよかったとも思う。

 幼い美紅に見せてくれた優しい笑顔。あれが母の本質なのだ。
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