望まれない花嫁に愛満ちる初恋婚~財閥御曹司は想い続けた令嬢をもう離さない~

(最後まで温かな人でよかった……)

 気付けば史輝が手を握ってくれていた。

「史輝くん……」

「大丈夫か?」

 いつの間にか涙が零れていた。史輝がそっと拭ってくれる。

 史輝と美紅の様子を見た義父が、悲しそうに目を細めた。

「手紙には令華の罪を告発し、史輝と美紅さんを守って欲しいと書いてあった。私は妻の最期の願いを長い間知らずに過ごし、それどころか史輝が言う通り、令華に荷担してきた。京極グループの代表として失格だ」

 史輝がはっと息を呑む。そのとき、耳を突きさすような叫び声がした。

「待って! お兄様何を言う気なの?」

 茫然とした様子で黙り込んでいた令華が、興奮したように義父に詰め寄る。

「私は責任を取るつもりだ」

「責任って? まさか史輝に当主の座を渡すつもりじゃないわよね? そんなことする必要はないわ。美紅の父親が死んだのは私のせいじゃない、逆恨みだわ! 体調管理ができずに運転を誤った自分の責任よ!」

 まるで罪悪感など感じていないような令華の態度に、美紅は頭に血が上るのを感じた。

「なんて酷い……父はあなたの我儘で無理をしたのに……」

 思わず漏れた美紅の言葉に、令華が怒りに顔を赤くする。

「私は悪くない! お兄様が私を追い出したりしなければ、事故は起きなかったわ!」

「そんな……」

 なんという他責思考なのだろう。全てが他人のせいで、自分は何も反省しない。

(この人に言葉は通じない)

 そう悟ったから母は家を出たのだろうか。悔しい気持ちで口を閉じたそのとき、史輝が美紅を守るように前に出た。
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