望まれない花嫁に愛満ちる初恋婚~財閥御曹司は想い続けた令嬢をもう離さない~
「父さん、今日はこれまでにしてください。美紅を休ませたい」

「分かった。令華たちのことは私が責任を持って対処する」

「お願いします……宗吾、行こう」

 史輝が美紅の肩を抱き、令華たちを連れ出してからまた戻って来た宗吾に声をかけた。

「ああ」

 宗吾が素早くドアを開ける。史輝は一度部屋の中を振り返ってから外に出た。

「美紅、大丈夫か?」

 史輝が廊下を進みながらも、心配そうに美紅の様子を窺う。

「うん……でもショックなことが多くて……」

 油断すると勝手に涙が零れてしまう。

 涙もろいのは幼い頃に卒業したはずなのに、どうしても止まらない。

 史輝が慰めてくれるけれど、落ち着くまでにもう少し時間がかかりそうだ。

「宗吾、今日はこのまま美紅の側にいたい。後を頼んでいいか?」

「もちろん、任せてくれ」

 宗吾が笑顔で頷き、颯爽と去って行った。

「あの、大丈夫だったの?」

 仕事の邪魔をしてしまったのではないだろうか。

「気にしなくていい。今は緊急事態だ。あいつは前田宗吾といって俺の唯一の親友だ。俺たちの事情も知っている」

「そうなんだ……あ、もしかして前田家の?」

「ああ。イギリスにいるとき、宗吾の妹が美紅の情報を知らせてくれた」

「妹さんって婚約された?」

「いや、その下の妹だ。人見知りで無口だが、その分観察力があって周りをよく見ている」

「そうなんだ」

 史輝と話しているうちに気付けば涙は止まっていた。

 ちょうど部屋に着き、居間のソファに座り体を休める。
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