望まれない花嫁に愛満ちる初恋婚~財閥御曹司は想い続けた令嬢をもう離さない~
 史輝の運転する車で、父が眠る墓地に向かう。

 海から近いその墓地は小高い丘の上にあり、海風が墓地の周りの樹を揺らしていた。

 光が下りる緑の芝の上に白い墓石が並ぶ、明るく安らかな気持ちにさせてくれる。

 美紅は父の墓石の前に立ち、持って来た花を添えた。

 母の妊娠が分かったのは、父が亡くなった後だったから、父は自分に娘がいることを知らずにこの世を去った。

 美紅も父の顔を知らず、少し前まで名前すら知らなかった。

 籍も入っていない。世間的にも認められていない関係。

 それでも墓石の名前を見たとき切なくなった。

 美紅はそっとその場に膝を突いた。

 ようやく会えた父に、祈りを捧げる。

(お父さん、安らかに眠ってください)

 史輝が美紅と同じように屈みこむ。一緒に祈ってくれているのだろう。

(お父さん、私の夫の史輝くんと、初めてできた友人の明日香さんです。私は今、幸せに生きてます)

 この声が届いたらいいのに。そう願いながら美紅は父に語り掛けた。


「史輝くん、今日はお墓参りに連れて行ってくれてありがとう」

 寝る前の夫婦の時間。美紅は史輝に改めてお礼を言った。

「お父さんに会えて嬉しかった」

「また連れていく。美紅がよかったらお義母さんを同じ墓地に連れて来ようか」

「そうだね……お母さんもその方が喜ぶかもしれない」

 母は今、笛吹家の墓地に眠っているけれど、きっと愛する人の側にいたいと思っているだろう。

「史輝くん……今日、私は幸せ者だと思ったの」

「どうしてだ?」

 史輝が優しく続きを促す。

「初恋の人と結婚して子供ができて、この先もずっと一緒に生きていけるから……史輝くんと会えて本当によかった」

「俺も美紅に会えてよかった。大切にしたいと思う人がいるから、苦しいときもここまでやって来られたのだと思う。愛してる」

 彼の手が背中に回る。温かな腕に包まれて顔を上げると唇を塞がれ、美紅は幸せの中で目を閉じた。

 この愛しさが永遠に続くことを願いながら。

 END
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