望まれない花嫁に愛満ちる初恋婚~財閥御曹司は想い続けた令嬢をもう離さない~
美紅は分家の令嬢が受けるマナー教育などを受けていない。学校の授業の一環で基本講習を受けたものの、卒業してからもう五年経つうえに実践したことがないため、まったく自信がないからだ。

史輝に恥をかかせないためにも、しっかり学ばなければ。

「ああ、頼んだ。それから……」

史輝がやや不機嫌そうに眉根を寄せたため、美紅は背筋がひやりとするのを感じた。

(なにか失敗しちゃったのかな?)

気付かないうちに失礼なことをしていたのかもしれない。

「さっきから俺を史輝さんと呼んでいるが、どうしてだ?」

「えっ?……あの、それは皆さんがそう呼んでいますから」

予想とはまるで違う問いかけだった。美紅は面食らいながらもなんとか返事をしたが、史輝は納得できないように眉をひそめた。

「昔はそんなふうに呼んでなかっただろう?」

「それは、あの、子供でしたから……今は自分の立場がどんなものなのか分かっています」

「……そうか」

史輝が浮かない表情で頷いた。

(今の返事がだめだった? 失望させてしまったのかな)

彼が望む返事が出来ない自分が情けなくて、ずきりと胸が痛む。
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