望まれない花嫁に愛満ちる初恋婚~財閥御曹司は想い続けた令嬢をもう離さない~
「史揮くん、私なら大丈夫です」

「いや、無理をする必要はない。今日はゆっくり休め」

彼はもう美紅から視線を外していた。

「……史揮くんはどうするのですか?」

「自分の部屋に戻る。明日の朝迎えに来るから」

「あ……」

史輝が部屋を出て行ってしまう。彼は一度も振り返りすらしなかった。



 
「あの、昨夜はすみませんでした」

翌朝。迎えに来た史輝に、美紅は泣きたい思いで頭を下げた。

(まさか初夜で失敗しちゃうなんて……)

昨夜は、あれから悩んでしまってほとんど眠れなかった。

史輝は初めは美紅を抱こうとしていた。それなのに途中で止めてしまったのは美紅が原因だ。

体を固くしてガタガタ震えて、そんなつもりはなかったけれど、拒絶しているように見えたのかもしれない。

彼は表向きは美紅の体調を気遣ってくれていたけれど、実際は気分が削がれてしまったのだと思う。

「美紅が謝る必要はない。急に決まった結婚だから気持ちがついていかないのは当然だと思ってる。俺がもっと気遣うべきだった」

打ちひしがれる美紅とは対照的に、史輝はいつもと変わらず冷静だ。

そんな態度にも焦りを覚える。
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