望まれない花嫁に愛満ちる初恋婚~財閥御曹司は想い続けた令嬢をもう離さない~
「き、緊張していたんです。それでうまくできなくて」

「分かってる。怒ってないし、しばらく何もしないから安心しろ」

言葉の通り、史輝が気を悪くしている様子はまったくなかった。

初夜が失敗に終わったのに、少しも気にしていないのだ。

(史輝くんにとっては、大した問題じゃないのかな)

こんなはずじゃなかった。今頃彼の本当の妻になって、朝を迎えていたはずだったのに。

「俺はすぐに仕事に出るが、美紅はゆっくりしているといい」

優しい声だった。けれど美紅の胸中は、穏やかではない。

今すぐ失敗を取り戻したくて仕方ない。

「あの、今日は何時に戻りますか?」

「はっきりしないが、かなり遅くなる。俺のことは待ってなくていいから、先に休んでいてくれ」

「そ、それなら明日は?」

美紅の必死な様子を怪訝に感じたのか、史輝が僅かに眉を顰める。

「しばらく仕事が忙しいんだ。今週は寝に帰るだけになる」

「……そうなんですか」

今週はまだ始まったばかりだ。つまり当分彼とゆっくり過ごす時間はないということ。

「籍を入れたばかりで不在にして悪いな。来週には落ち着くから」

「……はい」
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