望まれない花嫁に愛満ちる初恋婚~財閥御曹司は想い続けた令嬢をもう離さない~
女性スタッフに案内されて、化粧室に向かった。

船内とは思えない清潔感と高級感が漂う化粧室で、なんとか身支度を整えてから史輝の元に戻った。

先ほど食事をした部屋の隣は、窓から外を眺められるようにカウンターが設置された、バーのようなスタイルのスペースだった。

様々なお酒が置いてあり、オーダーすると作って貰える仕組みのようだ。

史輝は既にカウンター席に着いていて、美紅に気付くと微笑んだ。

再会したときは冷たくて近寄りがたかった美貌が、今はとても甘やかに感じる。

あまりアルコール度数が高くないカクテルをオーダーして、史輝と乾杯する。

史輝の前で泣いたせいか、構える気持ちが消えていた。アルコールの力も少しはあるかもしれないけれど、史輝がぐっと身近になったと感じる。

彼も同じように感じているのだろうか。ふたりの間に流れていた気まずい空気はもうどこにもない。

それまで避けていた幼い頃の思い出話に花が咲く。しばらく楽しかった日々の記憶を辿り笑い合っているとふと沈黙が訪れる。

史輝が改まった様子で口を開いた。

「会いに来るのが遅くなって悪かった。笛吹家での暮らしは大変だっただろう?」
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